オフィス・工場の空調効率化:効果的な運用と設備更新で省エネを実現する実践ガイド
オフィスや工場におけるエネルギー消費のうち、空調が占める割合は非常に大きいことをご存じでしょうか。特に季節の変わり目や猛暑・厳寒期には、快適な室温を保つために多くの電力が使われています。エネルギーコストの削減、ESG(環境・社会・ガバナンス)への取り組み強化、そして従業員の快適性向上という観点から、空調の効率化は避けて通れない重要なテーマです。
本記事では、オフィスや工場のエネルギー効率化を進める担当者の皆様が、空調効率化に取り組むための基本的な考え方から、具体的な運用改善策、さらには設備更新による効果的な省エネ方法までを網羅的に解説します。専門知識が少なくても実践できるよう、分かりやすくご紹介いたします。
空調効率化の重要性
空調のエネルギー効率化は、単に電気代を削減するだけでなく、企業経営に多岐にわたるメリットをもたらします。
- エネルギーコストの削減: 空調設備は全体のエネルギー消費量の30%以上を占めることも珍しくありません。効率的な運用や設備更新により、大幅なコスト削減が期待できます。
- 環境負荷の低減: 消費電力量の削減は、CO2排出量の削減に直結し、企業の環境貢献度を高めます。ESG経営やSDGsへの取り組みを推進する上で不可欠です。
- 職場環境の改善: 適正な室温管理は、従業員の集中力や生産性の向上に繋がり、快適で健康的な職場環境を実現します。
- BCP(事業継続計画)の強化: 高効率な設備は故障リスクが低く、安定した稼働を維持しやすい傾向があります。
空調効率化の基本的な考え方:運用改善と設備更新
空調の効率化は、大きく分けて「運用改善」と「設備更新」の2つのアプローチで進めることができます。
- 運用改善: 既存の設備を活かし、設定の見直しや日常的なメンテナンスを行うことで効率を高める方法です。比較的少ない初期投資で効果を出すことが可能です。
- 設備更新: 最新の省エネ性能を持つ機器に交換することで、根本的なエネルギー消費量を削減する方法です。初期投資は必要ですが、長期的に大きな効果が期待できます。
これらをバランス良く組み合わせることが、持続的な空調効率化の鍵となります。
【すぐにできる】運用改善による空調効率化
まずは、今日からでも始められる運用改善策をご紹介します。これらは初期投資がほとんどかからず、即効性が期待できるものばかりです。
1. 温度設定の適正化
環境省が推奨する目安は、夏場は室温28℃、冬場は室温20℃です。この基準を参考に、室内の状況や従業員の意見も踏まえながら、無理のない範囲で適切な温度設定を見つけることが重要です。設定温度をわずか1℃変えるだけでも、消費電力は10%程度削減されると言われています。
2. エアフィルターの定期的な清掃
エアフィルターにホコリが詰まると、空気の流れが悪くなり、冷暖房効率が大幅に低下します。月に1〜2回程度の清掃を徹底することで、無駄な電力消費を防ぎ、機器の寿命を延ばす効果もあります。
3. 室外機の周辺環境整備
室外機の吹き出し口や吸い込み口の周りに障害物があると、熱交換効率が低下します。室外機周辺には物を置かず、十分なスペースを確保しましょう。また、直射日光が当たる場合は、よしずや遮光ネットなどで日差しを遮ることで、効率アップに繋がります。
4. 適切な換気の実施
換気は重要ですが、やみくもな換気は空調負荷を高めます。休憩時間など、人がいない時間に集中的に行う、あるいは、全熱交換器を備えた換気システムを導入することで、室内の熱を逃がさずに効率的に換気することが可能です。
5. ブラインドやカーテンの活用
窓からの日差しは、夏場は室温を上昇させ、冬場は室温を低下させる大きな要因です。日中の日差しが強い時間帯にはブラインドやカーテンを閉めることで、外気の熱影響を緩和し、空調負荷を軽減できます。
6. ゾーニングと個別制御の徹底
オフィスや工場内で、使用頻度や室温要求が異なるエリアを明確にし、それぞれに合わせた空調制御を行う「ゾーニング」は非常に効果的です。例えば、会議室や休憩室など、一時的に利用される場所は個別空調を導入し、不在時は運転を停止するなどの対策が考えられます。
【抜本的な改善】設備更新による空調効率化
運用改善だけでは限界がある場合や、より大きな省エネ効果を目指す場合は、設備の更新を検討します。
1. 高効率空調機器への更新
古い空調機器は、最新の機器と比較してエネルギー効率が著しく低い場合があります。インバーター制御や高効率コンプレッサーを搭載した最新のパッケージエアコンやチラーに更新することで、大幅な消費電力削減が期待できます。高効率機器は、COP(成績係数:どれだけの電力でどれだけの冷暖房能力を発揮できるかを示す指標)やAPF(通年エネルギー消費効率)といった数値でその性能が示されます。
2. 個別空調化の推進
セントラル空調システムが導入されている施設では、全館一律での空調管理となるため、無駄が生じやすい傾向があります。部署やエリアごとに温度設定や稼働時間を最適化できる個別空調システムへの切り替えや併用は、柔軟な運用と省エネに貢献します。
3. 空調自動制御システム(BEMSなど)の導入
BEMS(Building Energy Management System)やFEMS(Factory Energy Management System)といったエネルギーマネジメントシステムを導入することで、空調機器の運転を自動で最適化できます。外気温や日射量、室内の在室状況に応じて自動で設定温度や風量を調整したり、デマンド監視を行いピークカット制御を実施したりすることで、人手を介さずに効率的な空調運転が可能になります。
4. 全熱交換器の導入
全熱交換器は、室内の空気と屋外の空気を入れ替える際に、温度と湿度(全熱)を交換する換気システムです。これにより、換気による熱損失を最小限に抑えつつ、常に新鮮な空気を取り入れることができ、空調負荷の低減に大きく貢献します。
5. 省エネに貢献する建材・設備との連携
空調効率化は、断熱材の強化や高効率窓(Low-E複層ガラスなど)の導入といった建物の高断熱化、LED照明への切り替えによる発熱量低減など、他の省エネ対策と組み合わせることで相乗効果を発揮します。建物全体のエネルギー消費量を総合的に見直し、連携させて対策を進めることが重要です。
空調効率化の導入ステップ
具体的な取り組みを進めるためのステップをご紹介します。
Step 1: 現状把握と課題特定
まずは、現在の空調設備の稼働状況、消費電力データ、設定温度、フィルター清掃頻度などを詳細に調査します。専門業者による省エネ診断を活用することも有効です。どこに無駄があるのか、どの設備が古いのかなど、課題を明確に特定します。
Step 2: 目標設定と計画立案
現状把握に基づき、「〇〇%の電力削減」といった具体的な目標を設定します。次に、運用改善と設備更新のどちらを優先するか、どのような対策をいつまでに実施するかといった計画を立案します。この際、費用対効果も考慮に入れることが重要です。
Step 3: 対策の実施
計画に基づき、運用改善策から着手します。並行して、設備更新が必要な場合は、複数のメーカーや施工業者から見積もりを取り、性能、コスト、サポート体制などを比較検討した上で導入を進めます。補助金制度の活用も検討しましょう。
Step 4: 効果測定と評価、改善
対策実施後は、必ず消費電力のデータなどを収集し、導入前と比較してどの程度の省エネ効果があったかを測定・評価します。目標達成度を確認し、さらなる改善点が見つかれば、次の対策へと繋げるPDCAサイクルを回すことが重要です。
まとめ
オフィスや工場の空調効率化は、単なるコスト削減を超え、企業の持続可能性を高めるための重要な投資です。まずは、今日からでも取り組める運用改善策から着手し、効果を実感しながら、必要に応じて高効率機器への更新やエネルギーマネジメントシステムの導入を検討していくことが成功への鍵となります。
「電力見える化」などのシステムを導入して現状を把握し、一歩ずつ着実に省エネ活動を進めていきましょう。これらの取り組みは、従業員の皆様の快適性向上にも繋がり、活気ある職場環境の実現に貢献するはずです。